昨今、インタビュー手法に関する記事が話題になっている。なぜだろうと考えてみたものの、明確な答えは出てこない。ただ思い当たるフシはあって、どのWebメディアも一次情報を出したがっているからなんじゃないか、という気はしている。
バイラルメディアが勃興したあたりから続くコピペによるコンテンツの濫造が、WELQの件を境に少し落ち着きを見せた。「ちゃんと一次情報を出していこう!」と考える人たちが増えたのか定かではないけれど、その一次情報コンテンツとしておそらくもっとも手っ取り早くつくれるインタビュー記事に焦点があたるのは良い徴候なんじゃないかと思う。
インタビューができるライターは重宝される
ライターが名前を売り出していきたいと思うなら、インタビュー記事で実績を重ねるがおすすめだ。自分で運営するメディアやブログでならコラムだってオピニオンだって自由に書けるが、まだ名前の売れていないライターがそれでお金をもらうのは正直難しい。クライアントがお金を払いたくなる記事の書けるコラムニストやエッセイストなんて数えるくらいしかいないし、ましてやオピニオンの発信で稼げるライターにはなかなかなれないだろうから。
その点、インタビューライターになるのは敷居が低い。どのメディアも一次情報を出すために必死になっているから、インタビューができて記事も書けるライターは非常にありがたがられる。
インタビュー記事にはとてもコストがかかる。企画を立て、対象にアポを取り、人をアサインして企画をすり合わせ、下調べを入念に行う。当日はインタビュー場所に早めに向かい最終確認し、いざインタビューを実施。終わったら文字起こしを行い文章を編集、インタビュイーやクライアントと原稿をチェックしてもらい、何度も直す。OKが出たら入稿し、場合によってはCMSをいじって画像を入れ込んだり、公開の準備をしたり。さらには公開後に記事をツイートしたり、炎上してないか確認しないといけないことも。
もちろんライターがどこまで担うかは案件によっても違うが、こういった煩雑なフローを一手に引き受けてくれるライターは、やっぱり重宝される。だからこそ、ライターとして名前を売っていきたいなら、まずはインタビューライターから始めるといいと本気で思っている。
さて、良い記事をつくるためには良いインタビューにしなければならないわけだが、そのためにどんな準備をしておいたらいいか。かれこれ6年程度の短い経験からも、ある程度そのかたちができあがってきたように感じている。ライターの数だけ答えはあるだろうが、現時点で自分が一番うまくインタビューをこなせる準備のスタイルをここにまとめておきたいと思う。
それは大きく2つに分けられる。ひとつは「惚れてしまうほどインタビュー相手のことを調べる」こと。もうひとつは、「もっとも聞きたいことだけを質問項目として用意する」だ。
惚れてしまうほどインタビュー相手のことを調べる
インタビューは相手のことを調べるのがすべて、とよく言われるが、実際そのとおりだと思う。よくプロインタビュアーが「プロレスを楽しみたいので相手のことはまったく調べません」などと言っていたりするが、自分がそのスタイルでインタビューで成功したことはない。相当上級者向けのやり方だと思うのでまったくおすすめできない。
第一に理解しておいてほしいのだが、基本的にインタビューはされて嬉しいものではない。言いたくないことまで根掘り葉掘り聞かれるかもしれないし、無理やり言語化された挙げ句に世間に公表されてしまいかねないのだから。しかも長時間拘束されるし、話すためには自分を準備しないといけないから時間も取られる。報酬は貰えたとしても端金に過ぎないし、本当にメリットがない。
それでもなぜ受けてくれるのかというと、少なからず自分の仕事や会社、プロダクトの宣伝になると思えるから。だから、まず基本として「話を聞かせていただく」というスタイルで臨んだほうがいい。間違っても「話を聞いてあげるんだからありがたく思え」といった何様な目線でインタビューしてはいけない。インタビュイーに、インタビューそのものの満足度を高めてもらい、最終的には「今日のインタビュー、よかったな」と思ってもらえるのがベストだ。
そう思ってもらえるインタビューに欠かせないのが調べることで、とにかく相手のことを隅々まで調べる。著名な方で本を出版されているならできるかぎりすべて目を通し、すでにいくつものインタビューを受けているならその記事をきちんと読む。無名の人ならSNSや個人ブログで何か発信していないか調べたり、近しい人にエピソードを聞いたりするといいと思う。自分が相手に興味があることを示すには、この下調べが間違いなく功を奏す。人は自分に興味を持っている人に興味を持つものだから、調べ尽くして好きになるくらいがちょうどいい。
ちなみに、このとき準備した著書はもちろん、参考にした記事もすべてプリントアウトしてインタビューに持参するのをおすすめする。ただ口頭で「◯◯さんについて調べてきましたよ」というよりも、説得力が断然増す。
また、時には好きになれそうもない人にインタビューしないといけないことだってある。そんなときにも下調べが効く。インタビュイーに興味が持てなくても、その人が興味を持っていることや好きなものと、自分に何か共通点があるかもしれない。つまり相手を好きになれる要素を何か見つけて、どうにかして興味を持つために下調べが役に立つのだ。
好きになれそうもない人ほど、共通点を見つけたときに気持ちが反転することがある。究極的には相手に惚れ込むほど調べることができたら、良いインタビューができる素地はできている。以前「インタビューすると相手のことが好きになる現象に名前をつけたい」という記事を書いたことがあるが、この心境になれると良いインタビューができるんじゃないかと思う。
・インタビューは、されて嬉しいものではないと理解する
・最終的に「良いインタビューだったな」と思ってもらえるのがベスト
・相手のことを隅々まで調べる
・著作や過去記事、SNSなど発信されている情報には目を通す
・好きになれないインタビュイーとは、何か共通点を見つけるといい
・惚れ込むほどに相手のことが分かれば、下調べはOK
もっとも聞きたいことだけを質問項目として用意する
十分な下調べができたら、その結果からインタビュー項目をつくる。注意してほしいのは、ガチガチに構成を固めた予定稿をつくってしまわないこと。もちろんクライアントから構成案を渡されてそれ通りにつくらないといけないこともあるが、決められた構成に沿った質問を用意してしまうと、それはインタビューではなくただの「答え合わせ」になってしまいかねない。大抵の場合、そうやってつくられた記事はおもしろくなくなる。
おすすめなのが、下調べの情報から絶対に核にしたいと感じたテーマだけを質問項目にすること。そして、その人を表現するときによく使われている言葉やエピソード、用語に数字といったキーワードを箇条書きでメモしておくスタイルが個人的にベストだと思っている。
固めた構成を元につくった質問リストと同じように、想定質問リストをつくってしまうと、その答えをすべて引き出すことに注力してしまい、場合によっては文脈を無視した質問をしてしまいかねない。だからどうしても聞きたいテーマだけはしっかり書き出しておいて、あとは話の流れによって引き出す項目を変えられるよう、キーワードだけをまとめておくといいと思う。
質問項目をびっしりリストアップするよりも、場を解きほぐすためのアイスブレイクはどうするかについて考えておいたほうがいいだろう。相手に興味ないことがバレバレの天気の話を長々としてしまわないように……。時事ネタを普段から頭に入れておくのはもちろんだが、下調べの最中に見つけた相手が興味を持っていることを皮切りにインタビューを始めるのがベターかなと思う。
ちなみに、インタビュイーに想定質問リストを送らないといけないシチュエーションも多々ある。その場合は仕方ないので、「こういうことを聞きたいです」というリストをつくらないといけない。ただ、自分はそのリストをインタビューの場に持ち込まないように。あくまで見るのは、メインの質問とキーワードを書いた紙だけだ。
・インタビューで予定稿の答え合わせをしない
・もっとも聞きたいことを質問項目として用意する
・インタビュイーを表す言葉やエピソードは、キーワードだけをメモしておく
・想定質問リストは先方の要望があればつくるが、自分は現場に持ち込まない
・アイスブレイクは数パターン用意しておくといい
最後に
本記事では、インタビュー実施に際しての「事前調査」と「質問項目づくり」について、自分なりにやっていることをまとめた。同じコンセプトでChikenライターの山越さんも記事を書いているが、自分よりも念入りに、幅広く準備していることがわかり、やはりライターによってやっていることは違うものだなと感じ入った。
ライティングに関する書籍が山ほど出ているのと同じように、インタビュー手法に関する書籍も数多く出版されているし、自分が行っている手法もそういった書籍に影響を受けている。最後に、自身の血肉になっていると感じる書籍を3冊紹介しておく。もしインタビューがうまくいかずに悩んでいる方がいたら、ぜひ参考にしてみてほしい。
■自分のインタビュー手法は、主にプロインタビュアーの吉田豪さんに学んでいるところが多い。ビートたけし、沢尻エリカ、田原総一朗、いかりや長介など、名だたるインタビュイーと紙のプロレスを繰り広げる方だけに、そう安々と真似できない危ないテクニックが満載だ。続々と重版を重ねる「聞き出す力」はもちろん、さらに磨きのかかった続編のこちらもおすすめする。 ■インタビューというか、「取材」に関するお作法を学ぶならこちらの本がベストな選択肢かと。どちらかというとジャーナリストを目指している人向けかもしれないが、「人に話を聞く」ということの意味を基礎から学べるので、ぜひ一読を。 ■最近刊行されたばかりの本。著者の山田ルイ53世はお笑いコンビ「髭男爵」のツッコミだが、今はコラムニストとしての腕に注目が集まっている。本書では、そのコラムニストとしての腕と、際立ったインタビュー能力の合わせ技を堪能できる。Photo by Aaron Burden on Unsplash
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