なりきれない系キラ☆キラ★女子ライターの生きる道 〜エモく、正しく、美しく〜

目黒駅東口を出て、白金台へ向かう途中にあるカフェ。

気取らず、出しゃばらず、落ち着きのある佇まい。ギィと、木製の重い扉を押し開ける。心地よい温もりの店内に、1月初旬の寒さに竦めていた体があっという間にほぐれていく。

入ってすぐの右側。通勤のため、足早に通りゆく人たちが垣間見える窓際に、彼女はいた。

名前は、山越栞(やまこし しおり)。

フリーランスとして働くライター。またあるときは編集者としても立ち回っている。

今日は彼女に「フリーライターの仕事観」についてインタビューを行なうため、目黒くんだりまでやってきた。

私、求められないとがんばれなくて。私じゃないとダメな理由が必要なんです。

フリーライターとして働く理由を問う私に、こう答えた彼女はいま、26歳。若い身空でフリーランスとして名を挙げ、毎月食いっぱぐれることなくキッチリ成果を出し続けている。

小学生のころ、先生に作文を褒められたんですよ。しおりちゃんは作文が上手だね、書くのは遅いけどって(笑)。遅いは余計だよと思ったけど、すごく嬉しかった。それが原体験になっています。

なるほど。書く仕事を選んだ人の原体験としては、そうめずらしいものではない。かくいう私も同じ原体験がある。きっとこの後、一度作家を目指すことになるのだろう。

書く仕事って何があるのかなって考えて、最初は作家を目指しました。手書きで、児童文学のような物語を書いていましたね。

やっぱり。たぶん、就職活動では出版社を狙うことになる。

大学までずっと推薦で上がってきたこともあって、入試は全部作文だけでした。だからあまり苦もなく進学してきました。そういう意味では、就活は始めての試験的なものだったかもしれないですね。
 

志望先ですか?広告会社か出版社しか考えていなかったので、エントリーしたのもそんな会社ばかり。狭き門なのは分かっていつつも、大学にいれてくれた親のことも考えて、どうしても正社員で入りたかったんです。

ふふふ。

途中、ある会社での選考が作文だったんですが、採用こそされなかったものの「社員全員で読んだけど、君の作文が一番よかったよ」って言ってもらえたのは、自分の得意と好きが一致するライターとして働こうと決めたきっかけになっています。
 
最終的に小さな出版系の会社に入ることができました。
 
社員が3人しかいないくらい小さな会社で、ちょうどライターを募集していたものの思い通りの人が取れなかったらしく、それなら育てた方が早いんじゃないかと考え直すことになり、ライター志望の私が見事採用されたってわけです。

就職を機に、ライターとして活動をし始めたということか。順調な滑り出しだ。ところで、どんな文章を書きたいと思っているのだろうか。こだわりがあれば知りたい。

ライターとしてのこだわり……読むことにハードルを感じない文章になっているかにはこだわっています。んー、なんというか、ポップな文章とでもいうんでしょうか。
 
正直に言うと、ライティングのスキルって、ホントによく見ないと、そんなに違いってないと思っているんです。ライターだったらライティングに力込めるのは当たり前ですし、ある程度クオリティが保たれていることが前提にはあるとは思うんですけど。
 
大事なことって文章の力ではなくて、現場を良くすることなんじゃないかなって思ってます。取材現場のディレクションを任せてもらう機会が多いんですが、そういうときにできるのって、現場の雰囲気を良くすることだと思っていて。
 
もしライティングでそう大きな差がつかないんだとしたら、クライアントが見るのってそういうノイズ的な部分だと思うんです。なんだかんだで仕事が途切れることなく働けているのは、私がそういうところにこだわっているからなのかな、なんて。

これはまた大胆な発言だ。

でも確かに、フリーランスとして働く以上、誰も自分を守ってくれるものはいない。サラリーマンなら多少人格に問題があっても、最悪会社のカンバンが守ってくれることもある。クライアントに喜ばれる人になるのはとても重要だ。

ただ、フリーで働いていると、どうしても入ってくる情報が限られてくる。もっと言うなら、偏る。インプットはどうしているのだろうか。

インプット…情報収集ですか。雑誌が好きでよく読んでいるんですが、ウェブからはあんまり。未だに一番信用しているのは雑誌初の情報だったりします。
 
ネットだと、Facebookからはしていますね。でも雑誌のFacebookページから流れてくる情報がメインですから、結局雑誌からってことになりますが。ウェブメディアとかブログとかは全然見ないです。
 

あ、何か特定のものから情報を取り入れるというより、私にとってはやることなすこと全部が情報源みたいなものです。友だちと旅行に行くことだって、情報収集みたいなものですね。

何からでもインプットする。その心意気や良し。
フリーランスとなると、普段からの情報発信、つまりアウトプットも重要だろう。そこから仕事が来ることもあるだろうし。Webメディア、なかでもブログを見ないのはなぜ?

私自身、ブログが続かなかったのが理由かもしれません。評価されずに書き続けることができないんですよ。ブログは基本、自己満足なところがあると思っていて。
 
だからクライアントワークがメインのライターをやっているのかもしれません。

ふむ。しかし、厳しく評価が下される現場にばかりいると疲れやしないか。

ああ、それはあります。やっぱり誰にも何も言われない楽園みたいな場所がほしくて、noteで執筆を始めました。UIがいいのか書きやすいからなのか、意外と続けられていて驚いています。
 
まだ少ないですけど私のnoteを購読してくれている人もいますし、その人たちが私に何を求めているのかはすごく気になりますね。
 

恋愛の記事とかホントに好きじゃないんですけど、もし彼らが私の書く恋愛記事が読みたいのであれば喜んで書きます。きっとラブラブいちゃいちゃしたものじゃなくても、私だから書ける恋愛ネタってのがあると思いますし、きっとそれを求めてくれてるんだろうし。
 
私、ひとりの人をひたすら幸せにしたいというより、自分ができることでより多くの人を幸せにしたいと思っていて。
 
今はそれが書くことで応えられていると思うんですが、場合によっては絵とか動画とか、ひょっとしたらダンスで表現するかもしれません。得意のお茶で応えられるならそれもやります。あ、私は茶道を習っているんです。

ほぅ。ところでお茶漉しさんは

山越です。

失礼しました。

私は伝統工芸オタクを自認していて、何の役に立つかはわからないけどずっと続けているのが茶道なんです。
 
日光の奥田舎に育ったんですが、遊ぶところは何もないんですけど、歴史と自然だけはたっぷりあって。それならせっかくだし、日本の伝統的な文化を身につけようと思って始めたんです。
 
あまりお茶をやってる若い人っていないですし、もの書きとの掛け算で何かできる人ってもっと少ないと思うんですよ。だからこの分野でなら自分ならではの道を築けるかなって、正直なところ思ってます。
 
運の良いことにお茶の土壌は両親がつくってくれていて、お茶道具も全部揃ってます。私くらい、この点で恵まれたライターはいないかもしれないですね。ちょっとゲスいかもしれないですけど(笑)

やや黒い面が顔を覗かせている。ところで闇越さんは

山越です。

失礼しました。

そういえば、なぜ望んでいた正社員の肩書を捨ててフリーランスの道へ?

自分でやることに自分で選択権を持ちたかったから、というのが大きいです。フリーでかつライターを名乗っていれば、普段会えないような人にも取材を兼ねて会うこともできます。この制限の無さが自分には合っているのかなって。
 
だからインタビュー仕事は大好きです。
 
同じくインタビュー仕事をナリワイにしているひとりとして、実に共感できる。しかしインタビューは難しい。ただ話を聞くだけなら誰でもできる(と思う)。そんな中で、自分がこの仕事をしないといけない理由はあるのか。

インタビューで大事にしているのは、カウンセリング的手法です。取材対象者ですら気づかなかったことを引き出して文章に落とし込みたいんです。

取材対象者がぽろっとこぼしたことを記事冒頭に持っていってフィーチャーしたところ、自分では言語化できなかった何かをかたちにしてくれたと喜んでもらえたこともありました。

これこそが自分がインタビュー仕事をしないといけない理由だと思うんです。

自分にしかできないこと。それを見つけることができた人は強い。

彼女は笑顔でこう締める。

私、仕事が好きです。
 
仕事をがんばるキラキラ女子って呼ばれてもかまわないです。でもなりきれていないんですよね、キラキラに。私は根がネガティブなので…(笑)。一点の曇りもなくキラキラし続けられる人は尊敬しています。
 
私は「なりきれない系キラキラ女子ライター」として、これからがんばっていきます。

なるほど、今日はありがとうございました。ところでエモ越さんは

山越です。

失礼しました。

ABOUTこの記事をかいた人

文筆家/編集者。犬派、邦画派。相対性理論/やくしまるえつこ愛。人文書、哲学書、文学あたりを好んで読む活字中毒。レトロゲームから現行機種まで幅ひろく遊ぶゲーマー。竜退治はもう飽きた。